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第二話「名前は佐藤一郎」

『「はい」は一回』
「今は勉強じゃないでしょが」
『ケジメはつけないと』
「いいから早くやってよ」
 先生は憮然としながらも、息を大きく吸った。そして水面に向かって真っ赤な炎を吐き出した──!

「ほ・本当だったんだ……」
 あたしのいるところまで熱気が伝わってくる。すごい火力だ。炎が吹き付けられた水面からは蒸気がもうもうと立ちこめている。その蒸気に先生の体は覆い隠され、炎の光しか見えなくなった。
 あたしの目は完全に点になっていた。
『どう? 信じてもらえたかな?』
 声をかけられて一瞬ビクッとなる。完全に呆けていたから、先生が海から上がってすぐ横に来ていた事など全く気付いてなかったのだ。
「へ? ……あ、先生」
『先生、じゃないよ。火が吐ける事、信じてもらえたかな?』
 あたしは首を大きくブンブン振って頷いた。

 これからは、先生が来た時は思い切りマジメに振舞わないといけないな。人のいる町では火は吐かないとは言ってたけど、マジに大激怒してしまったらどうなるか解らないし……。
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