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第二話「名前は佐藤一郎」あたしの脳裏を、今までの思い出が走馬灯のように駆け巡る。「あれもしたかった。これもしたかった。こんど封切られる映画、あれ絶対見たかった。そういえば今夜のドラマ、第一回目から欠かさず見てたのに。あ、今日の晩御飯は寿司を食べに行くとお母さんが言ってたな。それも回らない寿司を。せめてトロとウニとイクラとヒラメを心行くまで食べておきたかった。でも辛いの苦手だから職人さんにサビ抜きにしてって頼まないといけないんだよね……」 バフッ! あれ? 地面に激突したにしては、変な音だな? というより、こんな事考えていられるってことは、生きてるの? あんな高いところから落ちたのに、奇跡ってあるのかな? 『なに呆けてるの? これならドラゴンに連れ去られるのとは正反対、まさにドラゴンを駆る勇敢な少女の図だよ』 と、先生の声。改めて状況を確認すると、今あたしは先生の背中に乗っている、みたいだ。 「つまり、あたしを放して、落ちるあたしより速く急降下して、あたしが落ちてくるのを背中で待ち受けていた……って、訳……?」 『大正解!』 「あのねぇ! 先生と違って翼なんて持ってない人間のあたしは、あんな高さから落ちたらまず間違いなく確実に死ぬんだよ!」 『だから受け止めたじゃない』 |
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