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第二話「名前は佐藤一郎」

『人気(ひとけ)の無いところで火を吐くところを見せてあげようと思ってね』
「だからっていきなり飛ばなくても!」
『下は見ないように』
「え? 下?」
 見るなと言われると見てしまうのがお約束。はるか下に玩具より小さな町並み、人の姿なんて当然見えない。つまり、とんでもなく高いところを飛んでいる。
「うわ──! やだよ──! 怖いよ──!」
『だから見るなと言ったのに』
「見るなって言われたら見てしまうじゃない!」
 あたしは手足をバタつかせながら先生に猛抗議。
 待てよ? 今あたしは先生の手の中で暴れまわっている。これって第三者から見ると……。
「なんか、ドラゴンに連れ去られたいたいけな少女の図だな……」
『暴れてたと思ったら、……結構冷静な部分もあるようで……』
「なんかこれってカッコ悪いよ」
『……』
 次の瞬間、フッと体が浮いたように重力の感覚が無くなる。まるでエレベーターで下の階のボタンを押して動き始めたかのように……って、お〜い!!
「いきなり放すな〜〜〜〜〜!!」
 叫びもむなしく、あたしの体はニュートンのリンゴのように、万有引力の法則に従って落下していった。
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