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1 好敵手たち──水野エリカ──しかし、私は優勝なんてどうでも良かった。私が欲しかったのは優勝カップではなく、紺野からの勝利 だった。その紺野が私に近づいてくる。反則して勝ったのだからどんな暴言を言われても仕方が無い。それど ころか手を出されるかもしれないが、紺野の心情を考えたらそれも致し方無いと思った。私は覚悟を決 めた。が、紺野は笑みを浮かべている。 「……たとえ反則でも水野が空手出身だということを忘れて無防備に突っ込んだのは失敗だったね。負 けたよ。……優勝……おめでとう」 その瞬間、紺野の姿が急にピントがずれたように、ぼやけて見えた。 「紺野……、紺野……、紺野の顔がはっきりと見えないよ……。私、どうしちゃったんだ……?」 「負けた私が泣きたい気分なのに、勝ったくせに泣くなよ」 「泣いてる? 私が……?」 私は目をこすってみた。手が汗とは違う液体で濡れている。涙だ。 「紺野、お前が悪いんだぞ……。このやろう、反則しやがってと罵詈雑言言ってくれた方が良かったの に、なんでそんなにいいヤツなんだよ……」 その後はもう言葉にならなかった。大観衆の面前で誰はばかることなく私は号泣した。 そうして私の長いシリーズは終了した。 |
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