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19R ニューホープ中編

「いいのって、晶ちゃん……」
あたしがいようといまいと、この会社は別に変わらないし
「晶ちゃん……」
 晶ちゃんは私に微笑むと、控室に戻っていった。

「大技だけでなくジュースまでやっちゃうなんてね……。これは、晶ちゃんのためにも、優勝決定戦は下手な試合は絶対に出来ないね……」
 ジュースと言うのはプロレス業界内での隠語で、流血、特に試合を盛り上げる為の演出としての流血の事を指す。中谷さんの言葉に、私は頷いた。


 晶ちゃんが業界内の掟破りをした事は、会社的にも大問題になった。晶ちゃんを解雇すべきという声もかなり出たらしい。現場監督の沙希さんは、晶ちゃんをクビにするかしないかという苦しい選択を迫られる格好になった。普段は「バカ」とか呼んでいながら、沙希さんもなんのかんの言いながら晶ちゃんの事を目を掛けている。出来る事なら目を瞑りたい、でも全く処分無しとしたら示しが付かない。そんな沙希さんに助け舟を出したのは、晶ちゃんの直接的な師匠でもある社長だった。
「リングの上は無法地帯。何がおこるか解らない。禁止されているとは言え、大技に全く対処できずに負けた中山にも非がある。この世界、極端な事を言えば“やったもん勝ち”なんだ」
 という社長の言葉を受けて、沙希さんは晶ちゃんに対して、たった何日間かの試合出場停止処分を下した。以前私に対してシュートを仕掛けた中山先輩の処分とほぼ同じ内容、つまり罪としては同等で
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