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19R ニューホープ中編

 そういえば……、晶ちゃんはラフファイトの中山先輩の戦い方に、明らかに嫌悪感を見せていた……。この前なんか、「中山先輩の事は言わないで下さい!」なんて怒ってたし……。まずいよ、これじゃあセメントどころかシュートだってありえる……。

 私は慌てて控室に戻り、シャワーも浴びずに水着の上から直接ジャージを着込んだ。そして控室を出て入場口へ。唖然としている中谷さんを尻目に、ドアを開けて、リングに走る。そして、晶ちゃん側のコーナーのリング下にセコンドの如く陣取った。
 選手紹介が終わって、試合開始のゴングを待つ晶ちゃんに
「晶ちゃん、セメントはダメだよ!」
 と声をかける。
センパイ、何言ってんですかぁ? あたしはちゃんとプロレスしますよぉ
 相変わらず満面の笑みで答える晶ちゃん。

 ゴングが鳴った。私は固唾を飲んで見守る。
 と、いきなり晶ちゃんはダッシュして、まだ身構えていない中山先輩にフライングニールキックを浴びせた。前座では許されるはずのない“大技”だ。
 不意打ちを喰らって場外へ転落する中山先輩。リング下から怒りと驚きが混ざったような表情で
「き・如月! 前座でこんな技……」
 と叫びかけるが、途中で強制的に中断させられた。晶ちゃんがリング下の中山先輩に、ロープの間をすり抜けて頭から飛び込んでいったからだ。メキシコがルーツの空中殺法、トペ・スイシーダ(スペイン語
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