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19R ニューホープ中編組み合っている時、どさくさ紛れに私は無我夢中で、プロレスでは本来は反則であるはずの握り拳のパンチを、急所である鳩尾に打ち込んだ。中山先輩もこれには動きが止まる。そのまま押し倒したところで残り時間一分のアナウンスが流れた。もう時間が無い、一気に決めなければ。 私は関節技をかけようと中山先輩の手や足を狙うが、完全にディフェンスされていて手が出せない。不用意に手を伸ばせば逆に関節を取られる。そうこうしている内にも時間は過ぎていく。 残り時間三十秒。 私は馬乗りの状態になって、中山先輩の頭を掴んで持ち上げてはマットに力任せに後頭部を何度も叩きつけるという攻撃を繰り出した。とても技とは言えない原始的な攻撃だけど、もうなりふり構っていられなかった。ニューホープ開催前のインタビューで、中山先輩は手段を選ばないと言っていたけど、私だってこの期に及んでは手段を選んでる場合ではなかった。 残り時間十秒になっても、私は中山先輩の後頭部をマットに叩きつける攻撃を止めなかった。跳ね返されるかも知れないと思ったら、もうギリギリまで攻めないと安心してフォールできない。 残り五秒と言うところで、私はようやく頭から手を離し、フォールの体勢に入った。 中山先輩はカウントツーで肩を上げた──。 『30分、時間切れ引き分け』 というアナウンスを、私は呆然と聞いた。 |
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