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16R 不慮の勝利

 明らかに晶ちゃんのデビュー戦のことを言っている。悔しいけど事実なので、私は答えずに黙っていた。
「NJWPは前座では大技禁止らしいわね。つまり、長谷川さん相手に善戦できたのは大技が出来たからで、それが出来ない普段の試合では、結局はただのデクの棒って事かしら?」
「なっ……」
 さすがに少しカチンと来た。私の顔色が変わったのを見た石破選手はフッと笑みを浮かべると
「そういうことだから、あなたの大技であるジャーマンスープレックス、それさえ防げば全く問題ないってことよね。ま、お手柔らかに」
 と言いながら右手を差し出してきた。私だってここまで言われて素直に握手に応じるほどお人好しではない。私は、ジッと石破選手を睨んだ。
 NJWPの前座の選手で、対抗戦に出場するのは私と中谷さんの二人だ。沙希さんは私たち二人に何度も、大技は使うな、NJWPの前座でやっている技だけで戦え、と耳にタコが出来るほど言い続けた。
 事前の打ち合わせで、ジャパンレディースの選手が大技を使うのは許可している。つまり、極端な言い方をしたら、大技対小技だ。当然私たち二人にしてみれば不利な条件だ。ジャパンレディース側からは、使ってはいけない技などの指定は無かったので、ルール上は私も中谷さんも大技を使っても問題は無い。
 にも関わらず、沙希さんは、たとえ負けるような事があっても大技は使うな、と言った。私のスープレックスにしろ、中谷さんの裏投げなどの技にしろ、まともに決まればベテラン選手でも危ないほどの威力があるからだ、と沙希さんは言っていた。実際、二対一で長谷川さんと戦った時は大技解禁だったの
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