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16R 不慮の勝利

 私の右手はレフェリーの手で高く上げられていた。
 私は勝ち名乗りを受けていた。
 目の前にはセコンドに介抱されている“ジャパンレディースの石破茂美”選手がいた。
 完全に失神していて、目覚める気配も無い。
 リングに担架が運び込まれ、石破選手は気絶したまま退場した。
 私はセメントを仕掛けたつもりは無い。もちろんシュートなんてやってはいない。あくまで“プロレス”をしたつもりだった。ただ、私の“プロレス”が彼女にとっては“シュート”だったのかも知れない。それほど私と彼女との間には、実力的に大きな開きがあったのも事実だ。でも、それだけならここまで“凄惨な”試合にはならなかった。
 何かが少しづつ狂っていた。

 対抗戦開催決定後、程なくして当日の試合のカード編成が発表された。対抗戦に対して冷ややかな態度を示していた一部の“ベテラン”は試合から外されていた。さすがに、マッチメーカーの沙希さんも、こういう態度を取っている選手を対抗戦の試合で使うのはまずいと感じたらしい。他にも試合数の関係で外された選手は何人もいたが、そういった人たちは「なんで自分は出れないんだ」と不満を露にしていた。それに対して沙希さんは、次の対抗戦第二弾では必ず出すから、となだめるのに必死になっていた。しかし、最初から対抗戦を冷ややかな目で見ていた選手は、私を始めとする出場が決定した選手に対してにこやかに「頑張ってこいよ〜」と、まるで他人事のように語りかけてきた。「対抗戦という絶好の舞台に、まだ新人に過ぎない私が出るんですよ、悔しくないんですか!?」という言葉が何度喉から
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