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14R シュートとセメント

 この時点で私は、いつかは自分もセメントやシュートをしなければいけない事態が来るかもしれないけど、まだまだ先のことだろうと漠然と思っていた。


 シリーズが開幕した。私のこのシリーズの目標は、できる事なら中山先輩に勝つこと、だ。昨日の道場破りの一件で、まだまだかないそうに無いとは思ったけど、シリーズが始まった以上、頭を切り替えようと思ったのだ。
 今日までに私はほとんどの先輩から勝ちを収めている。だからと言って私の実力が先輩達の上を行ってるわけではなく、運勝ちばかりではあるけど。十回戦えばなんとか一回勝てるって程度だ。それでも勝ちは勝ち。試合で勝つたびにそれが自信となっていることは確かだ。中谷さん相手には、通常のシングルマッチではまだ勝てていないけど、バトルロイヤルでは勝った。あとは中山先輩だ。中山先輩は他の先輩とは明らかに実力が違う。他の先輩には運がよければ勝てていたけど、中山先輩相手だと、どんなに運が良くても、リング内で一本取られずに済むだけで、リングアウトなどで結局は負けてしまうのだ。それだけに中山先輩になんとしても勝ちたいという思いは日に日に強くなっていた。

 開幕第一戦での試合中の時だった。先輩のボディスラムを受けたとき、受身に失敗して左肩からマットに落ちてしまう。その時は、ちょっと痛いな、という程度でそのまま試合を続けた。試合が終わった後も(ちなみに勝った)痛みは残っていたけど、沙希さんの付き人としての仕事があるので、アイシング(冷やす事)もしないまま「明日には直るだろう」と呑気に考えていた。
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