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13R 他団体

 噛み付いてくる長谷川さんに沙希さんはマイクのコードを指で玩びながら
「ん〜、美幸のその心意気は評価できるんだけど……、私は今日の試合のカード決まってるから、そこであなたと戦ったら、本来の私の対戦相手があぶれちゃうんだ。私が二試合してもいいんだけど、それじゃあ私の対戦相手にも美幸にも失礼でしょ? 美幸もエースなんだからこの辺の事情くらい解るよね?」
 と答える。……相手はカッカしているのに、そんなに冷静に台所事情を説明しても……。沙希さんってひょっとして天然……? 完全に出鼻をくじかれた格好になってしまった長谷川さんに少し同情したくなった。
「そ・それじゃあ、沙希、あんたでなくてもいいから、とにかく今すぐ試合を組め! こんな事を起こしてしまって何もしないで帰ったら、私はただの大馬鹿者になってしまうワケ……!」
 さっきまでの勢いが少し落ちて、しどろもどろになった長谷川さんがいた……。
「じゃあ、前座の若手とならいいよ。でも、美幸クラスの選手にとってそれはプライドが許さないだろうから、変則タッグマッチ、二対一で。いいかな?」
「ま・まあ、それでも私にとっては役不足なんだけど、今日はそれで勘弁してやる……」

 その時、私と中谷さんは、リングの隅っこで事の成り行きを見守っていた。
「若手二人? 誰と誰でしょう……?」
 という私の言葉に
「イヤな予感がするのは確かだね……」
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