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11R 大技

「あ、愛ちゃん、大丈夫? 急に笑い出して、変なところ打った?」
 私は
「いえ、嬉しいんです……」
 とだけ答えると目を閉じた。意識が遠くなった。


 気がつくと、次の日の朝だった。自分の部屋の布団の中だ。
「夢だったのかな?」
 しかし、自分が着ていた服はパジャマではなく練習用のジャージだった。
 後頭部に重い痛みが残っていた。

 朝練のために道場に行くと、社長も晶ちゃんの相手をしながら、時たま後頭部を押さえていた。

 夢じゃない。私は確かに社長相手にジャーマンをして、そしてバックドロップを受けたんだ。
「山神、もしお前が反り投げ系の技で“ヘソで投げる”事を覚えたら、お前のスープレックスは世界を取れるぞ」
 私に気付いた社長はこう言うと笑った。


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