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11R 大技

 沙希さんが言うには、社長も比較的小柄で、晶ちゃんとほぼ同じくらいの身長だ。しかも、中谷さんのような技巧派ではなく体力派の選手だった。晶ちゃんも一日中スクワットするくらい底なしのスタミナでどちらかというと体力派だ。小柄で体力派という共通点から、晶ちゃんという娘に興味を持ったという事らしい。私は、沙希さんの言う事も確かにあるだろうけど、『オバサン』と言われた事を根に持って、コーチという名目でいびり倒す腹積もりもあるんではないかと思っていた。当然口には出さないけど。
「なんか、自分の全てを叩き込むとか言っていたよ。ゆくゆくは自分の後継者にでもするつもりなんじゃないの? 社長としてではなくレスラーとしての自分の後継者に、ね。あのバカに会社任せたら一日と言わず一分で倒産させちゃうだろうから」
 確かに晶ちゃんなら一分もあれば会社の資産以上に手形を乱発しちゃいそうな気もする。
 と、こんな事はどうでもいい。晶ちゃんが社長(厳密にはレスラー大島智智)の後継者!?
「まぁ、後継者云々は私の勝手な想像なんだけどね。ま、私は自分の後継者を作るつもりは無いんだけど。やっぱり個人の個性ってものがあるからねぇ。私は愛ちゃんの素質に惚れてスカウトしたわけだけど、二代目山吹沙希ではなく、初代山神愛になってもらいたいから」
「はあ……」
「今も道場にいるはずだよ。見に行く?」
「あ、はい」

 道場に着くと、沙希さんの言うとおり灯かりがまだついていて、中から叫び声やら「ドタン」「バタン」といった音が聞こえた。
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