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11R 大技

 確かに鳩尾は急所の一つだ。まともにそこを打ったら誰でも悶絶する。でも、ほとんど素人に過ぎない晶ちゃんの“駄々っ子パンチ”を受けたくらいで、痛がるだけでなく失神までするなんて、余程橋田先輩が油断していたんだろうか。
「でも、前半は橋田先輩のペースでしたよ。晶ちゃんは受身もまともに出来ないでタックルに倒されるし、グラウンドでも完全に体をコントロールされてたし。ただ関節だけは取られなかったですね。誰に教わったのか、関節技のディフェンスは完璧だったです」
 私は最初にタックルを教えて、次にグラウンド、最後に関節技を教えた。タックルとグラウンドが全く駄目で関節技の対応だけはできていたという事は、最初の方で教えたものは忘れて、最後に教えた関節技の説明だけ頭に残っていたという事……なのかな?

 その日の夜、タックルを晶ちゃんに“口頭で”教えた。そして次の日、私がスパーリングすると、タックルのディフェンスは完璧だった。しかし、足を引っ掛けて強引に倒してからは、グラウンドにも関節技にも全く対処できなかった。
 そして次の日は、グラウンドを教えてスパーリング。タックルのディフェンスは全くなっていないが、グラウンドでの攻防は完全にものにしていて、なかなか有利な体勢が取れない。何とか腕を取って関節を狙うと、こっちのディフェンスは全く駄目。

 結論。最後に教えたものしか覚えてない。以前教えたものはところてんの様に頭から押し出されてしまう。
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