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11R 大技

 カカト落としからの初勝利から一ヶ月が過ぎた。
 この一ヶ月は、必殺技を持っているという事が、どれだけ試合に有利に働くかという事を認識した一ヶ月だった。
 極端な話、必殺技を持っている選手は、試合でその必殺技を使わなかったとしても断然有利なのだ。相手は当然必殺技を警戒する。しかし、警戒するあまり、他の技への注意が散漫になってしまう部分があるのだ。そこを突くことが出来れば他の技でも勝利する事が出来る。
 そのいい例が私のデビュー戦だ。相手の中谷さんの必殺技は、一本背負いからの腕ひしぎ逆十字固めだ。私は当然、デビューする前から中谷さんの試合をセコンドで毎日のように見ていたから、その事はよく解っていた。だから、投げられる事は許してしまったけど、その後腕を伸ばされないようにブロックする事が出来たのだ。しかし、十字固めを警戒するあまり、中谷さんのバックボーンである柔道の腕の関節技は、十字以外にもあることを忘れていたのだ。その結果、腕がらみ(プロレス流に言うとチキン・ウィング・アームロック)に涙を飲んだ。中谷さんは、必殺技がある選手はそれを使わなくても試合で有利である、というのを実践している選手なのだ。
 私はそれを見本に、中谷さんの十字固めを私のカカト落としに置き換えてみたところ、連敗していたのが嘘みたいに勝率がグンとアップした、のが、この一ヶ月だったのだ。
 私は今ではカカト落としだけで無く他の蹴り技も取り入れている。と言っても、水野さんのように空手の経験の裏付けのある本格的なキックではなく、K1や、CS放送でやっているキックボクシングの中継を見よう見真似でアレンジ(というほど大層なものではないけど)した、自己流の“プロレスキック”だ。

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