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7R 新人戦沙希さんは、周りの人たちが私たちの会話を聞いてないか確認したうえで、小声で言う。「上の指示で、今回はなんとしても紺野と水野のワンツーフィニッシュにしろって言ってね。そのネックとなるのが中谷ちゃんだから、日程的に中谷ちゃんを潰すようなマッチメークにしろってさ。初日と最終日だけじゃなく、他の日程や公式戦以外の試合でもシリーズかけて中谷ちゃんにダメージが蓄積するように組めって」 なんかそれって非道い。私はなんとしても中谷さんに頑張って欲しくなった。そんな私の顔を見て 「わたしも、組むだけは組んだけど、あとはもう選手の問題だからね。中谷ちゃんにはでっかい仕事して欲しいと思ってるよ。マッチメークってさ、現場監督の私だけだったはずだけど、最近テレビ局の人間がウチの会社に出向してきて口を挟むようになってね。社長もテレビ局のバックアップが無くなったら会社的に厳しいものがあるから仕方なく……ね。社長は『わかりました。そういう風に組みはしますけど、その通りの結果になるかどうかなんて、試合は水物だから解りませんので、組んだ後に関しては責任はもてませんけどよろしいですか?』ってその上の人間に言ってたけど、その目が怖かったね。プロレスをビジネスとしか考えていない人間に対する、プロレスを愛する人間の目だったよ」 と言った。 「あの、実際中谷さんはこの日程で優勝戦線に進出できる可能性はあるんですか?」 「これ以上無いってくらい中谷ちゃんには厳しい日程にしたから。普通なら無理ね。でも……」 「でも……?」 「中谷ちゃんが普通じゃないって事は愛ちゃんも良く知ってるでしょ」 沙希さんは笑いながら片目を閉じた。思わず吹き出す私。 中谷さんにこれだけ肩入れするのは、現場監督としては失格かもしれない。でも、上の人間(テレビ局 |
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