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6R 前座戦線

 そのとき私の頭の中に、中谷さんのタッちゃんに対する言葉が浮かんできた。
『タッちゃんにサインした人は将来トップレスラーになれるってジンクスもあるらしいよ……』
 トップレスラーになれるかどうかはともかく、レスラーとしての素質、あの娘はあるのかな?
 ちょうどその時、その娘──如月晶──が会場の外に出てきた。
「タッちゃん、あの娘のサインって欲しいと思うかな?」
「え? どれどれ?」
 タッちゃんは、私の指した先に目を移した。が、よく見ると晶ちゃんは、今日もNJWPシャツではなく典型的なギャル系の私服だったため、周りの人の中に完全に溶け込んでいた。
「どこにいるんッスか?」
「いや……、なんでもない……」
 どう見ても練習生には見えないもんなぁ。

 その日の大会は、前座は相変わらず中谷さん効果で白熱し、それに触発されてかテレビ中継があったことでか、休憩明け以降の試合もすごく盛り上がって(テレビが無い時に手抜きをしている訳では断じてありません)、沙希さんはアメリカのナショナル・レディース・レスリング・アソシエーション(NLWA)という団体からの刺客を相手にしっかりベルトを防衛して(ついでにしっかり流血して)幕を閉じた。

「休場していた森山さんも完全復帰して、選手全員怪我も無く無事にシリーズ乗り切れたね。しかも、前座に引きずられてどの会場のどの試合もすごく盛り上がったし。ベルトを守ったことよりそっちの方が嬉
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