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5R 巡業

 控室に戻って開口一番、森山さんが沙希さんの肩を叩きながら言った。
「いや〜、森さんと組むと楽ですから。今日はありがとうございます」
 沙希さんが深々と森山さんに頭を下げる。そして私達に向かって
「ね。最後にシメたのは森さんだったでしょ」
 と苦笑いした。

 帰りのバスの中、中谷さんが沙希さんに噛み付いた。
「だいたいなんで私の相手、沙希さんだったんですか〜」
 その怒りはごもっとも。それに対して沙希さんは急に小声になった。
「実はね、紺野ちゃんと水野ちゃん、レスリングでは絶対の自信はあるけど中谷ちゃんの関節技ってそれだけで必殺技でしょ。万一腕でも折られたら、将来のエース候補なのにそんな事があったらいけないって上から言われたの」
「だからっていきなり沙希さんなんて」
「だからこその私よ。紺野ちゃんや水野ちゃんが一度も戦って無い私と新人が戦うと、どうなる?」
「紺野さんや水野さんは心中穏やかでないってことですか?」
「そう。こうなったら上がなんと言おうと、あの生意気な新人はただじゃおかないってなるわ。そうすると前座もよりヒートアップする。私と中谷ちゃんの試合は点に過ぎないけどその点を繋げて大きな線を描こうって訳」
「それじゃ私、狙われるって事じゃないですか〜。嫌ですよ、恐いですよ〜」
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