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5R 巡業

後ろに立ってる。
「や・やだなあ、森さんのテクニックを目的にしてるお客さんだってたくさんいますよぉ」
 あの社長にも頭を下げそうにない沙希さんがへこへこしてる……。
「中谷さん、あの人誰ですか? 沙希さんを“ちゃん”付けで呼ぶって事は凄い人なんじゃ……」
 小声で中谷さんに聞く私。
「本当に凄い人だよ。森山さんって言うんだけど、NJWPでは実力ナンバーワンと言われてるし。去年なんか沙希さんが一度も勝てなかった相手だよ。今日はタッグマッチで沙希さんとコンビ組むの」
「え? でもチャンピオンは沙希さんでしょ」
「そこはマッチメーカーの強権で、沙希さんと森山さんの試合は全てベルトは賭けないノンタイトル戦に強引に沙希さんが決定し……」
 そこに沙希さんの見事なキックが中谷さんの後頭部に炸裂した。森山さんはクスクス笑っている。
「私みたいな地味なファイトスタイルの選手がチャンピオンになったら会社的にまずいの。タイトルマッチを断ったのは私の方よ。山神……愛ちゃんね。先シリーズ欠場してたから初めて会うわね。よろしく」
「あ、どうも……」
 自分からタイトルマッチを断った、という理由が凄い。タイトルマッチになったとしたら、いつでもベルトを取れるという自信が暗に感じられる。
 そこに沙希さんが
「でも中谷ちゃんのように思ってるファンも多いんですよ〜。山吹は森山が恐いからタイトルマッチを組まないんだ、って。もうベルト取られてもいいからタイトルマッチ受けて下さいよ〜」
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