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5R 巡業

「野球のアンチ巨人の人とかは巨人を徹底的に憎んでる、それと同じようなものでしょうか?」
「……かな。違うのはプロレスは作られた憎まれ役で演出に寄るもの、だけどね」
 なるほど。だからあの時の沙希さんと松田さんの試合は、お客さんも凄く乗ってたんだ。
「ところでさあ、私の試合どうだった? 短かったし一方的だったけどそれなりに頑張ったんだよね」
 プロレスの知識豊富な人なら気の効いたことを言えるのだろうが、私はまだそんな器なんかじゃない。
「柔道の経験無い沙希さんに柔道技で負けたことが気になりました」
 我ながらピントのずれた返答だな。案の定、中谷さんは変な顔をしている。
「確かに決まった形は同じかも知れないけどさあ、そこへ持っていく流れが違うから……。それに柔道は『腕ひしぎ十字固め』でプロレスは『腕ひしぎ“逆”十字固め』だから名前から違うしねぇ」
 と言う中谷さんだが、私にはチンプンカンプン。

「……とにかく! セコンドに付きますかあ!」
「そ・そうですね!」
 話題を打ち消すように私達は控室を出た。

 私はセコンドの意味を漠然とは知っていた。リングサイドで戦っている選手に色々声をかけて指示を送っている姿に見覚えがある。でもそんな事出来っこない。
「中谷さん、セコンドと言っても私に何が出来るんでしょうか……」
「私だって何にも出来ないよ。ようするに試合を見て勉強しろって事だから難しく考えなくていいよ。
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