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5R 巡業

「このバス、今日は何故か村岡さんじゃなく林さんが道場に持ってきましたよ」
 と言った。
「林……君? なんで?」
 等と言ってると、初めて見る顔の男の人がバスに乗り込んできた。
「林君、どうしたの?」
「ムラさんが風邪引いちゃいましてね、今日の会場は都内で近いから僕が代役です」
 沙希さんの問いに、その林と呼ばれた人は答えた。
「中谷さん、あの人……?」
「営業の林ちゃん。ここんとこ仕事で飛び回ってたから、愛ちゃんが見るのは初めてだね」
 そうかぁ。興業会社だから営業なんて役職もあるんだぁ。それにしても結構カッコイイな……。
「愛ちゃん、目がハートマークになってるよ」
 ドキッ!
「そ・そんな事ありませんよ! 今の私はうんと練習して一日も早くデビューすることで頭が一杯ですから、林さんのこといいなあとか、彼女とかいるのかなあとか、出来ればお話ししてみたいなあとか、一切考えてません!」
 あれ? 墓穴掘ったかな?
「……ま、いいけどね。でもダメだよ」
「そうですよね。あんなにカッコイイんだから、彼女とかいるはずですよね」
「じゃなくて、前座レスラーを卒業するまで、酒・煙草・男は禁止なの」
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