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5R 巡業

「お邪魔します……」
 恐る恐るバスに乗ろうとすると
「これは他人の家じゃないの、ただのバス!」
 と、すかさず突っ込む中谷さん。
 バスには、私と中谷さんが一番乗りだった。私たちが乗って待っていると、次々に先輩選手たちが乗り込んできた。私達の様に合宿所暮らしをしている人たちは割とすぐにやって来るんだけど、そうでない人はちょっと遅れがちだった。最後に慌てた感じでバタバタと乗ってきたのは沙希さんだった。
「沙希さぁん、一分遅刻ぅ!」
 誰かが言うと、沙希さんはバツ悪そうに頭を掻く。
「中谷ちゃん、なんで起こしてくれないのよ」
 沙希さんが付き人一号の中谷さんに言うと(ちなみに私は付き人二号)
「ええ、頼まれてませんから」
 と言いながら、朝コンビニで買った弁当をパクつき始める中谷さん。
「あ、美味しそう。私の分は?」
「頼まれてませんから」
 私は頭を抱えた。
 沙希さんはすねた様な顔をしながら席に着いた。
「なんだ、運転手の村岡さんいないじゃないの。それじゃあ私の遅刻も無しだよね」
 沙希さんが言うと、中谷さんが
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