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3R 入門

 いわゆるリクルートスーツに身を固めた私は品川駅前に立っていた。地方から上京するとしたら普通は東日本からなら上野駅、西日本からなら東京駅のはずだが、深夜高速バスの方が安かったのでJRは使わなかったのだ。

「お父さん、お母さん、やりたい事が見つかったの。東京へ行かせて」
 さすがにプロレスをやりたいとは言えなかった。それでもお母さんは猛反対した。しかしお父さんの
「お前が生半可な気持ちで家を出たいなんて言うはずはない。お父さんは信じているぞ。その代わり途中で投げ出しても家の敷居は跨がせないからな。成功か失敗か白黒はっきりするまでは帰ってくるなよ」
 という言葉で私の東京行きが決まったのだ。お母さんは「女の子だから」となかなか賛成の姿勢を見せてくれなかったが、お父さんは自分の子供を男だとか女だとかいうことでいろいろ言う性格ではないのだ。
 私がプロレス入りを決意したのは現状から逃避したいという部分もあった。このまま平凡にいつかは結婚して子供を産むのも悪くはない。でもあえて非凡な世界に自分を置いたらどうなるのか、それが知りたかっただけなのかも知れない。もし私をスカウトしたのが芸能プロダクションだったとしても(それは絶対有り得ないけど)応じていただろう。さすがにAVにスカウトされたら断るけど……。
 私の決意を沙希さんは電話口で喜んでくれた。
「いや〜、これで首の皮繋がったわ〜」
 ……確か社員としての肩書はどうでもいいんじゃ無かったっけ?
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