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第九章

「邪魔するよ」
 鍵を開けてミノルの部屋に上がり込む星来。今では極々自然にお互いの家に行き来するようになっている二人。いまさらではあるが、合い鍵の交換も先日済ませた。その日は、仕事でミノルがいない内にレンタルしてきた洋画のビデオを見ようとしていたのだ(星来はビデオデッキを持っていない)。
 ベッドに誰かいた。この部屋の家主のミノルだった。
「あれ? 今日仕事じゃ無かったのかよ」
 星来が声をかけるが、返って来たのは苦しそうなうめき声だった。ミノルの額に手をあてるとかなり熱を持っている。
「だ・大丈夫か?」
 大丈夫ではないから布団にふせっているのだが、そんな事を考えるような余裕は星来の中から完全に飛んでいた。
 ミノルがうっすらと目を開ける。
「あ、あぁ、来てたのか。いま何時だ?」
 星来が答えると
「もうそんな時間か……。仕事に行かないと……」
 と起きあがろうとする。星来は慌ててミノルを押さえつけた。
「バカか、お前? そんな状態で仕事が出来るわけないだろうが」
「風邪くらいで休む訳にはいかないだろ」
「風邪くらいって、程度ってもんがあるだろうが」
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