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第一章

 ミノルはその日、仲間内での飲み会に出ていたが、少しいらついていた。自分の隣に座っていたのが、彼がそのグループ内で最も生理的に受け付けない(早い話が嫌いな)女性――星来(セーラ)――だったからだ。
 星来はグループの中では男女ともに人気があるのだが、ミノルにとってはその姿がただの『八方美人』にしか見えなくて好きになれなかった。
 星来はミノルとは反対側の隣に座っている女友達との会話に熱中していたのだが、その話し声も彼にとってはただのノイズだった。ミノルも星来とは反対側の隣の人と話し込んでいたが、彼女の声が少しでも聞こえないように、とばかり考えていて、自身の会話は全く上の空だった。
 その時、星来の肘がグラスに当たった。中に入っていたビールがミノルの服にかかる。
「あ、ゴメン! 大丈夫?」
 星来が慌ててハンカチを取り出し、ミノルの服を拭こうとするが、彼はその手を払いのける。
「怒っちゃった……? ゴメン、話に夢中になってて……」
 星来は心底済まなそうな顔になっている。ミノルは「しまった」と思った。何のかんの言っても彼女は同じグループの仲間だ。個人的に嫌いではあってもあまり邪険にするわけにはいかない。自分の個人的な好き嫌いでグループ内に亀裂を起こすわけにはいかない。
「いや、怒ってないから」
 ミノルはそう答えると、なおも服を拭こうとする星来を「いや、いいから」と断った。


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