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第一話「先生がやってきた」

 その日から英語の家庭教師の先生が家に来る事は前々から知っていた。あたしは少しは真面目な娘だということをアピールするために予習の真似事でもしようかな、と柄にもなく思った。自分で言うのもなんだけど、明日は季節外れの大雪になるかもしれないな。
 あたしは一人で勉強するときはいつも音楽を聞いている。何か曲が鳴ってないと落ち着かなくて何も手につかないのだ。今日もコレクションの中から適当に一枚CDをセレクトしてデッキにセットした。しかし、曲が鳴り出したところで停止。このCDは聞き飽きているやつだった。別のCDをセット。あまり好きな曲じゃない。さらに別のCDをセット。小学校の頃、創立記念に作られた校歌のCDだった。さらに他のCDをいろいろ聞いてみるけど、一通り聞いてもいまいちしっくりするのが無い。レンタルショップで借りてきたCDをダビングしたMDも全部聞くものの、なんとなくボツ。新しいCD買ってくるかな。でも今月は金欠だから無駄な出費はしたくない。じゃあレンタルにでも行こうか。しまった、会員証の有効期限、とっくの昔に切れて失効している。再発行してもらうのも面倒くさいし、第一、身分証明書(学生証)、学校に置き忘れてる。
 普段滅多に勉強しないのに、珍しくその気になったらこれだ。もう完全に気分が削がれた。こんなときは不貞寝するに限ると、あたしはベッドに横になった。家庭教師が来たらお母さんが起こしてくれるでしょ、と目を閉じる。まぶた越しに部屋の電気の明かりが感じられた。
 数分後、不意に暗い感じがした。横になっているあたしと電気の間に明かりを遮る何かが現れた、という感じだ。あたしは「なんだ?」と目を開けた。
 あたしの目に映ったのは、爬虫類(らしいもの)の顔だった。しかもトカゲのような小さいものではない。人の顔と同じくらいの大きさだ。
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