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12R バトル・ロイヤル

 年末最後の興行が終わり、大晦日を目前にしたある日、合宿所近くのコンビニの雑誌コーナーで立ち読みしていた私は、自分に注がれている視線に気付いた。視線の方向に目を向けると、高校生くらいの男の子がプロレス雑誌と私を交互に見比べている。
 衛星放送で全大会・全試合を放送している今でも、チューナーを持っている人の割合からすると私はまだまだ無名の選手だ。合宿所の近所の人さえも私がプロレスラーだということを知らない人のほうが多い。ということは、この男の子は雑誌を見たら目の前に雑誌に載っている人物がいたので驚いていた、という訳だろうか。つまり、私が雑誌に載っている……? 私は視線に気付かない振りをして立ち読みを続けた。しばらくして男の子が店から出たところで、彼が読んでいたプロレス雑誌を手に取ってパラパラとページをめくる。
『NJWPバトル・ロイヤル 今年の覇者はなんとデビュー一年目の新人!』
 大きな見出しに、これまた大きく私の写真が掲載されていた……! 次のページにはフィニッシュとなった私のジャーマンの写真があった。記事の方に目を移す。
『末恐ろしい新人が現れたものだ。ニューホープカップで得点数第二位、受身では定評のある中谷園子が完璧な形で受身を取ったにも関わらず失神してしまったのだから。バトル・ロイヤルはどちらかというとお祭り的な要素の方が強い試合形式ではあるが、この強さは本物だ。その新人の名は山神愛……』
 まともに読めたのはここまで。私は耳まで真っ赤になるとぎこちない動きで雑誌を閉じ、棚に戻した。恥ずかしさでとてもその雑誌を買う勇気なんて出ない。逃げるように店を後にした。


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