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11R 大技

 ……という経緯で現在に至る、らしい。私はその場にいなかったから、細かいところは解らないけど。
 などとやっているうちに社長はリングの中に入ってきた。
「あんた達が二人がかりでやるって言うのなら、私がこの娘に助太刀するよ」
 だからいじめてるんじゃないんです、と言おうとしたら、晶ちゃんが社長に向かって
オバサン、誰?
 とのたまった。
 あんた、入門するときに社長に挨拶したでしょうが。まぁ晶ちゃんの頭だと忘れてしまっても仕方ない、百歩譲って許してあげよう。でも、よりにもよって『オバサン』!? 確かに私たちの年齢から見たらそうかもしれないけど、自分のことをお姉さんと呼ばれるかおばさんと呼ばれるかという部分では微妙なお年頃なのよ、あんたも女なんだからそのくらいの気を使いなさい!
「愛ちゃん、なに口をパクパクさせてるの? しかも顔は赤くなったり青くなったり、まるで信号機みたい……」
「あ、いえ……。声にならない声を上げていました……」
 と、中谷さんと話している時、社長の方から
痛い痛い痛い痛い〜!
 という悲鳴が聞こえてきた。何事かと向き直ってみたら、社長が晶ちゃんにアルゼンチンバックブリーカー(アルゼンチン式背骨折り)をやっていた。やはり晶ちゃんの『オバサン』発言は社長の逆鱗に触れたのだろう。

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