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拾弐:冷たい女性(ひと)

「おはよう。今日も綺麗だね」
 彼が彼女に声をかけた。しかし彼女はツンと澄まして返事もしない。
「……相変わらずだね。でもいいよ。君は何も喋らなくてもいい。僕の話を聞いてくれるだけで」
 彼の家は、両親が料理屋をやっていたのだが、昨年、事故で二人とも死んでしまい、今は一人で暮らしている。特に定職は持ってはいなかったし、店も今はやってはいないが、先代のときはかなり繁盛した店だったらしく、蓄えだけでしばらくは食ってはいけていた。

 そのころ、世間ではある女性が行方不明だというニュースが流れていた。
 彼もテレビでその騒ぎについては知っている。

 ある日、彼の元に警察が来た。例の行方不明の女性についての聞き込みだ。
 彼は適当に応対した。

「今日、警察が来たよ。でも君は誰にも渡さないからね」
 警察が帰ったあとで、彼は彼女──行方不明の女性──に話し掛けた。しかし彼女は相変わらず澄ましたままだった。

 次の日も、その次の日も、警察が聞き込みに来た。さらに次の日には警察に同行するように言ってきた。彼が任意かと聞いたら警察がそうだと答えたので、じゃあ行かないと答えて警察を追い返す。

「どうやら僕は疑われているらしい。でも、君は絶対に渡さない」
 その日の夜、彼は料理用の大型冷凍庫から彼女を連れ出した。
 そして、その日買ってきた家庭用のかき氷器を取り出し、ツンと澄ましたまま“固まっている”彼女を見つめて微笑んだ。

 そして、彼女は彼と“ひとつになった”。
あとがき